知りたくて、知りたくて、分解した
私は幼稚園児のころ、家中の家電を分解しまくる、問題児でした。
初犯は、ビデオデッキの分解。「ビデオデッキの中で、テープがどのように動いてるのだろう?」「どうやってビデオテープから映像を読み出しているのだろう?」それらの仕組みが知りたくて、知りたくて、仕方がなかったのです。
「分解すれば全てが分かる!」と思った私は、ドライバーを片手に、ためらいなく犯行に及びました。分解してみると、複雑に組み合わさった部品たちが、目の前に広がっていました。幼稚園児の私がこれを見た所で、仕組みの理解には到底及びませんでした。でも、「なんか凄い!これ面白い!」という、心の底から湧き上がる強いワクワク感があったことは確かなのです。
一通り分解し終り満足したところで、ビデオデッキを元に戻そうとしました。しかし、無残にもバラされた「かつてビデオデッキだった物」は、当然ながら戻せるはずもなく。親には厳しく叱られました。
でも、私の犯行はそれで終わることはありませんでした。初犯で得た「あの」感覚が忘れられなくて、しばらく経って今度はカメラを分解。また叱られる。次はオーディオアンプを分解。さらに強く叱られる。それでも、止められませんでした。なぜなら、「中身を見たい」「仕組みを理解したい」その純粋な好奇心は、何度叱られても消えることがなかったのです。
今思えば、あれが私の原点です。ガジェットの本質を理解したい、という探究心。
ガジェット愛が、私の人生を決めた
小学生になると、私の興味はさらに広がっていきました。家電量販店に行くのが大好きで、カメラ、オーディオ、プロジェクターの展示コーナーで何時間でも過ごせました。一人で通い詰めるだけでなく、友達を引き連れて行ったこともありました。
友達が「公園で遊ぼう」「野球しよう」と提案する中、私だけは「家電量販店に行こう」と言っていました。周りから見れば、かなり変わった子供だったでしょう。でも、私にとっては家電量販店こそが最高の遊び場だったのです。
では、家電量販店で私は何に夢中になっていたのか。それは、ガジェットの仕組みを理解することでした。
カメラのレンズがどうやって光を曲げて、遠くのものを大きく映しているのか。アンプとスピーカーがどうやって小さな電気信号を、大きな音に変えているのか。プロジェクターがどうやって小さな機械から、壁に巨大な映像を映し出しているのか。
展示品を実際に手に取って、動かしてみて、仕組みを理解しようとしていました。店員さんにも質問しながら、「なぜ?」「どうやって?」ばかり考えていました。時には同じ店員さんに何度も同じようなことを聞いて、困らせてしまったこともあったかもしれません。でも、あの頃の私は、知りたいという欲求を抑えられなかったのです。
家に帰ると、もらってきたカタログを教科書のように読み込む。気づけば徹夜していたこともありました。スペック表の数字一つ一つに意味があって、その背後には技術的な理由がある。当時の私には、その技術的な理由を完全に理解することはできませんでした。でも、「きっと何か凄い仕組みがあるはずだ」という直感だけは持っていました。そして、それを知りたくて、知りたくて仕方がなかったのです。
その後、スマートフォン、SSD、充電器と、新しいガジェットが登場するたびに、同じ「なぜ?」を繰り返してきました。この探究心は、年齢を重ねても全く衰えることがありませんでした。むしろ、知識が増えるにつれて、疑問の解像度が上がり、さらに深く知りたくなっていきました。
高校生になる頃には、明確な目標ができていました。「ガジェットの原理を、本質から理解したい」。そのためには、表面的な知識ではなく、基礎から学ぶ必要がある。だから、大学は工学部へ。
「ガジェットの進化=半導体の進化」と気づいた
工学部では、電気回路、電子回路、電磁気学、電子物性など、ガジェットを支える技術を、一つ一つ、基礎から学んでいきました。高校までの物理や数学とは違う、実際の製品に直結する知識。長年疑問に思っていたことが、次々と解き明かされていく喜び。幼稚園児のときに感じた「なんか凄い!おもしろい!」が、「こういう仕組みだったのか!」に変わっていく。その瞬間が、何度も訪れました。
あの頃、カタログを徹夜で読みながら「きっと何か凄い仕組みがあるはずだ」と思っていた疑問。それが解明されていく喜びは、言葉では表せないものでした。
そして大学で学ぶうちに、ある真実に気づきました。ガジェットの進化は、半導体技術で決まる。
スマホが速くなるのも、SSDが大容量化するのも、ディスプレイが美しくなるのも、すべて半導体技術の進化が根底にある。かつてビデオデッキを分解した時に見た、あの複雑に組み合わさった部品たち。その中心には、必ず半導体チップがあったのです。
「それなら、半導体を学べば、ガジェットの本質が分かる」。そう考えて、大学院では半導体工学を専攻しました。
大学院では、先進的な発光デバイスの高効率化を研究テーマとして取り組みました。小学生の頃に夢中になったプロジェクターやディスプレイ。その発光・表示技術を、今度は自分で研究する側になったのです。自発光ディスプレイの発光メカニズムや効率改善に関する基礎研究に携わり、研究成果を国際学会で発表する機会にも恵まれました。こうした研究活動を通じて、デバイス物理の深い理解を得ることができました。
現在は、半導体デバイスエンジニアとして、メモリデバイスの開発に携わっています。デバイス性能の最適化が、私の日々の仕事です。幼稚園で分解したビデオデッキから始まった探究心は、今も変わらず、私の中に生き続けています。
このブログを始めた理由
社会人になって、ふと気づいたことがあります。
世の中には、たくさんの素晴らしいガジェットレビューがあります。使用感、デザイン、実際の使い心地を丁寧に伝えてくれるレビューは、とても参考になります。YouTubeでもブログでも、多くのレビュアーが日々、新しい製品を紹介しています。
ただ、一つだけ足りないものがある。それは、技術的な背景です。
「このSSDは速い!」と言われても、なぜ速いのか、その技術的な理由は語られないことが多い。「この充電器は小さいのに高出力!」と評価されても、どんな技術が使われているのかは説明されない。「この充電器は小さいのに高出力!」と驚かれても、それを可能にする仕組みは明かされない。
こうした「なぜ?」に答えるレビューは、まだ多くありません。そして、この技術的な背景を知らないことで、多くの人が判断に迷っています。
スペック表の数字が高いから買う。レビュアーが褒めているから買う。最新モデルだから買い替える。これらの判断基準が悪いわけではありません。でも、技術的な判断基準が加われば、もっと自信を持って、後悔しない選択ができるはずです。
私は半導体デバイスエンジニアとして、ストレージデバイスの内部動作を熟知しています。また、開発の最前線から、次世代技術の動向についても情報を得ています。大学院での研究経験から、ディスプレイ技術についても深い理解を持っています。そして何より、幼稚園の頃から30年近くものあいだ、ガジェットの仕組みを追求し続けてきました。
だからこそ、提供できる価値があります。
ガジェットの本質を理解すれば、あなたにとって”ベスト”な選択ができる
このブログでは、既存のレビューでは語られにくい、技術的な背景と判断基準をお伝えします。
「このSSDはなぜ速いのか」を知りたければ、NANDフラッシュメモリの種類とコントローラーの技術を理解する必要があります。「このスマホはなぜ発熱しないのか」を知りたければ、プロセッサの製造プロセスと電力管理の仕組みを理解する必要があります。「この充電器はなぜ小さいのに高出力なのか」を知りたければ、GaN(窒化ガリウム)という新しい半導体材料の特性を理解する必要があります。
こうした技術的な背景を、半導体エンジニアの視点から、分かりやすく解説します。専門用語には必ず注釈を付け、図解も交えながら、理系の知識がない方にも理解できる形でお伝えします。
技術的な判断基準を理解すれば、スペック表の数字が何を意味するのかが分かります。レビュアーの評価を鵜呑みにするのではなく、自分で判断できるようになります。そして、あなたの使い方に本当に合った、あなたにとって”ベスト”な製品を選べるようになります。
ガジェットの本質を理解すれば、製品選びはもっと楽しくなります。スペック表を見るだけで、そこに込められた技術者の工夫や、技術的なトレードオフが見えてくる。新製品が発表されるたびに、「ああ、あの技術を使ったのか」「この性能を実現するために、こういう設計をしたのか」と、技術的な背景を想像できるようになる。
それは、幼稚園の頃に私が感じた「なんか凄い!これ面白い!」というワクワク感を、大人になった今でも味わえるということです。
一緒に、ガジェットの本質を探究していきましょう。このブログが、あなたのガジェット選びを、そして技術への理解を、より深く、より楽しいものにできれば幸いです。


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